出過ぎた杭は打たれない

ここは途中だ 旅の何処かだ

冷然とした東大理系卒の雑記帳

獣害問題について考える

 伊豆ゼミ(テーマは獣害)へ行ってきた。10月と11月の2回に分け、それぞれ2泊3日ずつで猪肉のソーセージ作りをした。作ったソーセージは燻製にして駒場祭で売った。

 まず、初めに皮を剥ぐ、内臓を取るといった下処理が既にされた猪を解体した。剥いだ肉はソーセージへするためミンチにした。ミンチの一部は餃子にして食べた。また骨付き肉でBBQをした。

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猪肉で作った餃子

 

豚100 kgに3万円vs猪100 kgに6万円

 猪肉は野生ということもあって身が引き締まってて美味しい。羊肉(ジンギスカン)に近いとも言える。増えすぎた結果、農作物を荒らしてしまう猪が食肉市場に入ってきてもおかしくないが日本には何故かその仕組みが浸透していない。魚に天然・養殖両方があるのに、肉には天然がほとんど無いのは若干疑問ではある。

 無論、感染症などの対策は畜産のものと同水準にしなければならないが。

 野生鳥獣の肉は珍味として扱われることも多い。駒場祭の出店で客引きを手伝っていた時、「イノシシのソーセージの燻製やってます」と言うと「えーイノシシ?」という反応をする方々が一定数いた。売る側で無ければ、自分も確かにそういう反応をする。

 例えば金田一秀穂さんが「死んだ魚の生の肉」と「刺身」とではどちらも同じ意味だが、後者の方が美味しいと感じることを指摘していた。野生鳥獣の肉のことを「ジビエ」と呼ぶと何か高級感が漂うのにも似ている。一言で言い当てるのは難しいが、「イノシシ」という言葉にどこか野生っぽさがあるのだと思う。

 ここで豚肉と猪肉の生産コストを大雑把ではあるが、比較してみる。以下の表が豚100 kgを生産するのに掛かる費用のデータである*1

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 費用合計の列を見ると、豚100 kgを生産するのに掛かる費用はおおよそ3万円であることが分かる。費用合計の列を見ても分かる通り、豚を沢山飼っている方がコストが低くなることが分かる。

 一方で猪の場合はどうだろうか。猪による農作物などへの被害額の統計はよく調べられてあったが、猪を捕まえる費用に関する統計は乏しかった。これは自治体によって異なるのだろうと思うが、今回は群馬県太田市が公開していたデータ*2資料ページ1を用いることにする。

 大雑把に計算するとイノシシ一頭の駆除費用は個体数調整(捕獲等)だけでおおよそ6万円かかる*3

 また、一頭あたりの食肉にできる量は豚に劣る。ビジネス化を考えた場合、何らかの付加価値が産まれない限り、猪は豚に太刀打ちできないと思われる。

 

ソーセージの皮は何で出来ているのか

 ミンチにした猪肉は羊の腸に詰めてソーセージに加工した。ソーセージの皮(ケーシング)は人工のもので出来ていると今まで思っていた。確かにコラーゲン、プラスチック、セルロースといった人工のものが使われている場合もあるが、動物の腸も使われているというのは今回初耳であった。

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手作り感満載の猪肉のソーセージ

 

獣害はどれだけ深刻か

 猪や鹿といった、人里へ降りてくる有害鳥獣が増加している一方、人口減少で猪や鹿を捕まえる人手は各市町村で不足してきている。エコツーリズムに猪の解体の体験とか組み込めると解体に必要なマンパワーの問題も克服出来るようには思う。

 幼少期から学校で獣害教育をするのは確かに重要である。しかし、そのような教育を受けた人のうち、どのくらいが獣害対策に最終的に関わるのかはあまり期待出来ないと感じた。農業高校の学生を始めとした手が動く青年たちに、実際に手を動かしながら学んでもらうのも大切だと感じた。

 獣害の問題は深刻で、農作物を荒らすだけではない。捕まえたと思ったら罠が劣化していたが為に、罠を破壊した猪が突進してきて何針も縫ったケースがあるらしい。猪も人間も命がけだというのを今回感じた。

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南伊豆町にある東京大学下賀茂寮



*1:平成30年度の最新版はここから確認できる。 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukei/seisanhi_tikusan/attach/pdf/index-12.pdfのp8参照

*2:https://www.city.ota.gunma.jp/005gyosei/0030-002soumu-zaisei/bs/files/H25segment-0.pdf

*3:有害鳥獣対策のコストには個体数調整(捕獲等)によるもの以外に、保護柵設置や苦情対応などがある。今回個体数調整(捕獲等)のみについて計算すると、イノシシ一頭あたりの駆除費用は(フル・コスト13,020,429円÷イノシシ209頭=)6万円となる。ただしフル・コストにはイノシシ209頭だけでなく、ハクビシン23頭とカラス936羽の駆除費用も含まれていることに注意されたい。