出過ぎた杭は打たれない

ここは途中だ 旅の何処かだ

冷然とした東大理系卒の雑記帳

【書籍レビュー】それでも、日本人は「戦争」を選んだ

 ページをめくる手が止まらない本に久しぶりに出会った。

 日本史というものは高校では選択しておらず、教科書にあるようなスタンダードな日本史の知識は義務教育までで留まっていた。太平洋戦争関連の本は以前『失敗の本質』を読んだことがあったが、分量の割に少々物足りなさを感じたのを覚えている。というのも、各戦闘の詳細及びそこから得られる教訓という流れで『失敗の本質』は書かれていたのだが、教訓の部分が単調なもので自分には新鮮さが感じられなかった。

 一方で今回の本、タイトルにある通り『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』は、中高校生への講義をもとにしたものであるからか、非常に明解な内容であった。義務教育までの日本史の知識しかない自分でも知っている出来事についても、こういう見方があるのかと目から鱗が落ちる内容であった。

 興味深かった話題を二つだけ挙げておく。一つ目は太平洋戦争でアメリカ側も多くの犠牲を出した(死者9万2540人)が、アメリ南北戦争の方がより多くの犠牲者を出した(北軍と南軍合わせて死者18万4594人)ためアメリカ人には南北戦争のトラウマが強いことである。二つ目は中国は西洋にやられっぱなしのイメージがあるが、1880年代までは中国と日本で西洋列強への貿易面での安心のさせ方という点で違う道を辿っており、どちらも上手く機能していたことである。中国だと華夷秩序(中国と列強で朝貢貿易の形式をとる)、日本だと国内における商法と民法の整備(これにより安心して貿易ができるということで列強との不平等条約改正につながった)である。(他にもあるが挙げるとキリが無い!)

 東大文学部教授である著者の非常に明晰な分析を追体験することが出来る。