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冷然とした東大理系卒の雑記帳

交通・物流リソースの最適化を目指せ

 ポストコロナの2030年へ向けて、交通や物流をどのようにアップデートすべきかについて、私見を述べてみる。

 

はじめに

 地方部における鉄道やバス、タクシーといった公共交通は、沿線の人口減少及びモータリゼーションに伴う利用者減少で経営が既に厳しかったが、コロナ禍でますます状況が厳しくなっている。一方で、通院や買い物に利用する高齢者、通学に利用する中高生などの交通弱者にとって公共交通は依然不可欠な存在である。そして高齢者による危険運転への対策や2050年カーボンニュートラルの実現に向けてマイカーから公共交通への転換を促すことは社会全体にとっても重要な課題である。

 また公共交通と対照的に、物流需要は増大している。Amazon楽天などを利用したEC消費はコロナをきっかけに高齢世帯にも普及が進んだ。ポストコロナの2030年の社会ではテレワークが浸透し、非効率な外出の機会もコロナ前と比べ減少することが予想される。したがって、2030年には更なる物流需要の増大が予想され、物流の効率化は喫緊の課題である。

 以上の課題を解決するために交通・物流リソースの最適化を提案したい。実際にこれを社会で実現するために必要なプロセスとして地域の現状の把握、事業者間での連携推進について述べる。

 

地域の現状の把握

 まずは地域の公共交通(あるいは物流)を考える上で、沿線のニーズを吸い上げることが必要である。地域ごとに利用者特性は違うはずである。例えば高齢者が多い、中高生が多い、あるいは観光客の利用が多いなどの違いがあるだろう。また公共交通の維持発展において、交通事業者、自治体、沿線企業、そして地域住民といった利害関係者間のニーズの擦り合わせが必要である。満遍なくニーズを吸い上げるのに最適な方法は定期的にステークホルダー会議を開くことである。しかし、懸念としては普段の業務に加えてそれぞれが膝を突き合わせ議論する機会をどこまで確保できるのかという問題がある。

 そこで会議を開くだけではなく、普段からもっと気軽に地域内での交流の機会を作ることが重要である。例えば地域で協力し催事を開催するなどが考えられる。また職場体験や社会科見学、あるいは出張講義といった形で、小中学校や高校で地域交通に関する教育活動に取り組むことも考えられる。教育活動を通して、選挙権を持たない小中高生にどれだけ地域交通のニーズがあるかを把握することが出来る。そして、若い頃から地域交通に関心を持ってもらう事で将来の公共交通の担い手になってくれるかもしれない。

 

事業者間での連携推進

 このように沿線のニーズ、そして各者の思惑を相互に把握した上で、実際に事業レベルで交通事業者間の連携を進め、また異業種との連携も模索することが重要である。以下に分野ごとに述べる。

 

交通事業者同士の連携

 公共交通利用者が減少していく地域において、例えばJR九州西鉄の連携のように競合する交通事業者間での連携が不可欠である。しかし、今まで連携してこなかった事業者間での連携にはまだ障壁が多い。例えば、連携に伴う事業縮小や自社の乗客減少への不安、タクシー会社で言えば各社が異なる配車アプリを既に導入しており複数のタクシー会社を統合した配車システムの導入に抵抗があることが考えられる。

 特に通勤通学に多く利用される路線に関しては定時運行が重要である。そのため事業者間で運行時刻の擦り合わせも必要となる。これらの課題に対してまずは短期間小範囲で実証実験という形で連携してみて、上手く行けば継続、上手くいかなければ再検討を行っていくことが大切である。

 

MaaSアプリ開発者との連携

 MaaSアプリ導入に関してはITベンダーとの連携が不可欠である。利用者にとっての利便性向上やシステム維持費軽減の観点から、最終的にはMaaSシステムを全国レベルで標準化していくことが望ましい。また例えばキャッシュレス決済導入に関しては手続きの手間や利用手数料といった障壁が挙げられる。システムにおける価格競争を促し、質の高いシステムが適切な価格で提供されるようにすべきである。

 

物流との連携

 物流との連携に関して言えば貨客混載による輸送資源の有効活用が望まれる。コロナ禍で都市部での生活を見直す動きが高まっている。都市部への人口集中是正の観点からも、2030年には地方への移住者増大を期待したい。しかし最低限の生活利便性が無ければ地方へ移住する人は増えていかない。既存の輸送資源とITを活用した地方における物流の再整備が重要である。

 

 

 以上では今まで連携する機会が少なかった事業者間の連携について述べてきたが、各地域で多く行われている成功事例をロールモデルとして、失敗事例を反面教師として共有していくことが大切である。情報共有によって躓きやすいポイントの可視化や実際の事業化の後押しに繋げることが出来る。